スパイ活動において、記憶はその根幹を成すものである。
実話に基づくフィクションにして実用書。作品主人公はKGB(旧ソビエト連邦国家保安委員会)に所属するとあるスパイ。その任務を遂行する上で求められる「記憶」に焦点をあてながら、記憶力を高めるトレーニング方法が紹介される。スパイの任務で重要なのは、膨大な情報を残さず記憶して完全に再現すること。スパイは記録を残せず、メモもできない。また他人になりすますために、偽りの人生を正確に矛盾なく話せる能力や、複数の立場を使い分けることも求められる。記憶力に長けていないスパイは、命を失いかねない。
読んでいて実感したのは、イメージする能力と、既存の知識と新しい知識を繋げる手法の大切さ。数字のイメージ化とストーリー化の具体例は参考になる。
記憶力を鍛えるには、気づく注意力と、その情報をすでに知っている物事に関連付ける想像力。
▪️記憶術の3つの原則
1つ目は関連付けること。すでに知っていることに関連付けると簡単になる。脳はさまざまなイメージや概念を互いに結びつけることが得意だからだ。
2つ目の原則は、情報を視覚的にイメージすること。記憶力を良くするには、想像力を使って視覚的にイメージすることがきわめて重要。奇抜なイメージだと特に覚えやすい。より鮮明に記憶するには視覚だけではなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚も使うとよい。細かいところまでイメージすればするほど、記憶力は上がる。
3つ目の原則は、感情を伴わせること。脳はもっとも強烈な感情が伴うものを優先して覚える。関心を持てば持つほど、感情が活性化されるので、記憶しやすくなる。
▪️忘れることは重要
忘れないと脳が情報であふれかえってしまうから。いったん忘れることで、新鮮な目で問題を捉えられるようになる。記憶はその後によみがえらせればよい。
▪️未来記憶
何かをしようという意図や予定を覚えること。過去の記憶とは違い、本人が主体的に思い出す必要があるため難易度が高い。単に意図しただけで、実際にはまだ起きていないことだからだ。
▪️未来記憶 4つのテクニック
1つめは、環境を変化させて普段とは違う状況にすること。スニーカーを歯ブラシのそばに置いておけば、朝のエクササイズを忘れることはない。
2つ目は、Todoリストや予定表を使う。
3つ目は上述した記憶術を使う方法。予定している仕事を思い出すキッカケやタイミングを考え、そのシチュエーションの視覚的イメージをはっきり思い浮かべて感情を伴わせる。
4つ目は、気が散った後にはすぐに新しい仕事に移らないようにすること。未来記憶にミスが起きるのはほとんどの場合、大事なことをしている最中に新しい仕事が入って気が散ってしまうために起きている。一呼吸おいて、気が散る前の記憶に立ち戻ることが必要。
「ツァイガルニク効果」という、最後まで終わった課題よりも、中途半端になったり中断されたりした課題の方がよく覚えているという現象をうまく利用したい。